古文書解読検定

漢字の読み方

 中国語の漢字は原則、読み方は一種類しかありません。ところが、日本語の漢字は、音読みが一つとはかぎりません。たとえば「修行」「行動」「行脚」の「行」は、それぞれ「ギョウ」「コウ」「アン」と読んでいます。これは中国語の読み方が、時代によって変わったため、それを受け入れた結果、いろいろな音読みが残ってしまったからです。「ギョウ」は呉音、「コウ」は漢音、「アン」は唐音で、それぞれ呉音は遣隋使以前(七世紀以前)の中国の発音、漢音は遣唐使時代(八~十世紀)、唐音は宋の時代(十二世紀)に移入されたものです。
 日本では、八百年ごろ桓武天皇が、呉音を使わず漢音で統一するように命じたため、朝廷では漢音が主流となり、今日に至るまで漢音が標準的な音読みとなっています。しかし、奈良の仏教界は呉音を用い続けたので、仏教用語は、呉音による音読みが今に残っています。一方、唐音は禅宗僧が伝えた特殊な音読みとして、今も禅宗の用語で使われています。
 わたしたちは、同じ漢字を使っているのに中国語が話せないのは、昔の中国語の発音で漢字を読んでいるからなのです。
『読めれば楽しい!古文書入門』(潮新書より転載)